美術記者を経て獲得した司馬遼太郎の美学

本の紹介

 再読書評 美術記者を経て獲得した司馬遼太郎の美学
 司馬遼太郎作品では、『坂の上の雲』や『世に棲む日々』に感服するものだが、20年ほど前に読んだこの短編集では、美術の見方について襟を正される思いがした。

 今回何度目かの再読で、美術を見ることに対する経験値が増えた分だけ、さらに新たなる感銘を覚えた。それぞれに書かれた美術評論文を一つにまとめるに際して、著者が前書きとして書いた『裸眼で』という文章が秀逸である。かつて産経新聞の新米の美術記者として、数々の絵画理論(印象派、フォービズム、キュビズム、表現主義、抽象絵画など)の本を読み漁り、その間絵画に感動する心を忘れていた著者は、その呪縛から解き放たれた後、ゴッホのデッサンに見る文学性や、上村松園の描くふとした情景に心を掴まれる。

 現在もなお、いやさらに多くの絵画理論や、多種多様な主義が反乱しているが、頭でっかちにならず常に「裸眼で」心から見ることが大切であると、あらためて思った。美術は左脳ではなく、右脳で感じるもの。これが今のところの私の思いである。(千)

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