探鳥会に参加して野鳥に開眼
北海道生活が始まって間もないころ、小学生の間で「小鳥先生」として有名になっている柳澤信雄先生に出会った。小学校の校長先生で、野鳥だけでなく植物、農業、四季折々の自然景観などにも精通しており、話は子どもたちへの話に慣れているから簡潔、明快で面白い。しかも写真を撮りまくっている。自宅に伺い、膨大な写真や資料をもとに、北海道の大自然の様相を聞いた。

「百聞は一見にしかず。探鳥会に行きませんか」と誘われて、野幌森林公園での探鳥会に参加した。30人ほどのグループで、北海道野鳥愛護会という。柳澤先生をリーダーに、園内を回り始めた。

写真は野幌森林公園。鬱蒼とした森林には、四季折々の野鳥が棲んでおり、毎回、30種以上が観察できた。

この写真は、札幌円山公園の入り口付近。ここにもよく探鳥会で行った。周辺には住宅地があり、そこに住んでいる人は、毎日、野鳥と触れ合うことが出来る。
皆、双眼鏡と野鳥図鑑を首から下げ、三脚付きのカメラや望遠鏡を担いでいる人もいる。思い思い、四方八方双眼鏡で観察しながら、見ている野鳥の名前を言う。珍しい野鳥を見つけると、発見者が騒ぐから皆一斉にそっちに双眼鏡を向ける。
その動作の早いことに驚いたが、もっと驚いたことは、鳥のさえずりだけで種名を言い、樹間を移動していく鳥影を見ただけで種名を言っている。
ウグイスのさえずりはホケキョだけでない
薮の中で何か鳥のさえずりらしい声を聞くと「ウグイスが鳴いてますね」と言う。「ホーホケキョ」しか知らない筆者に、「ウグイスは今の時期、これしか鳴きません。ホケキヨは、もっと先になります」と教えてくれる。これをウグイスの地鳴きという。
途中で持参した昼食を食べながらの会話にも驚いた。園内の植物や花の開花情報から始まって、道内各地の野鳥情報に広がり、どこそこにどんな鳥が現れたか、各地の野鳥愛好家からの情報を披露する。午後3時過ぎに探鳥会が終わったとき、この日見た野鳥の種合わせをした。50種ほどの名前が出てきた。すべて見た人もいるが、筆者などは2、3種類しか判別できず、ほとんどは皆さんに教えてもらった鳥だった。

円山公園と隣接して北海道神宮がある。鬱蒼とした森に囲まれた自然環境は素晴らしく、ここでも野鳥を観察することが多かった。
北海道の鳥たちのあらましを知る
筆者はたちまち野鳥の虜になった。日本野鳥の会に入会し双眼鏡、望遠鏡、図鑑類まで野鳥愛好家が持っている道具を備え、見かけだけは一応それらしくなった。カメラは、商売道具だからいつも持ち歩いていたが、野鳥撮影はしなかった。距離が遠く、動きが速くてシャッターを切っても、ろくな写真は撮れていないから早々に諦めた。
観察する土地も札幌近郊から始まり、5年余の間に道内の主な探鳥地はほとんど回った。酷寒の知床に、冬の渡り鳥を見に行ったこともある。札幌近郊では、藻岩山、円山公園、北海道神宮、札幌中島公園には、頻繁に出かけて観察し、干潟の鳥たちを見るのは、太平洋に面する鵡川河口岸や日本海に面した石狩浜などだった。車で出かければ大した距離ではなく、鳥の観察にはちょうどいい距離感だった。
北海道で見た野鳥の種も80種くらいになった。道内で見られる野鳥は350種と聞いていたので、4分の1を超えた程度しか見ていない。一年中、北海道に生息する野鳥のほかに、春に渡ってきて秋にいなくなる夏鳥、冬の間だけいる冬鳥、北海道を通過していくだけの旅鳥たちをその季節ごとに観察して楽しむのは、それなりに大変だった。
酷寒の道北に冬鳥を見に行く
1977年2月ころだった。北海道が一番寒さに震える時期である。道北のオホーツク沿岸の流氷が流れてくるあたりに冬鳥を見に行った。腰までつかる深い積雪をかき分けて、やっとの思いで海岸線までたどり着いた。そうまでしないと目当ての野鳥は見られない。
シベリア北部やグリーンランドで繁殖し、冬になると寒さを避けて北海道に渡ってくるユキホオジロを見に行ったことがある。私たちが震えあがっている冬のオホーツク沿岸に避寒にくるというのだから、シベリアの北極圏の寒さは想像を絶するものだろう。
案内したのは、環境庁の国立公園管理事務所保護科長をしていた百武充さんだった。鳥や植物のことなら百科事典のような知識を持っている。オホーツク海に面した海岸線を歩いていると、30羽ほどの小鳥の群れが飛び立った。白と黒に染め分けられた翼が鮮やかに目立った。目当てのユキホオジロだ。
体全体が白く、頭と頬が褐色だ。スズメより大きく、ムクドリよりは小さい。海岸近くにある海藻類をしきりについばんでいる。虫を探して食べているようだ。気温は氷点下であり、双眼鏡の操作も手がかじかんでうまくできないほど寒い。しかし鳥たちは、俊敏な動作で虫を探し、周囲を見渡し、あるときになると一斉に飛び立つ。海から吹いてくる寒風などものともせず、俊敏な動作であっという間に視界から消えていった。
流氷の海を泳ぐコオリガモ
僅かな岸壁のある地点に行くと、オホーツクから押し寄せてくる流氷群が果てしなくつながっている。海岸線にわずかに海面を出し、海鳥たちが嬉々として回遊していた。シノリガモ、コオリガモなどの一群だった。
この海鳥たちも、グリーンランドの北極圏で繁殖しているもので、酷寒の地を避けて冬になると避寒地の北海道に渡ってくる。海の波間には無数の氷塊が浮いている。その海面で海鳥たちは大きな声を出し合いながら、ひきりなしに海中に潜ってエサを探している。コオリガモは小型のカモだが、オスは非常に長い尾をピンと空に向かって立てている。体は白いので、流氷群の中で活動しても周囲の雪景色に溶け込んで、猛禽類や海獣類の天敵に容易に見分けられないのだろう。
観察していると「ア、ア、アオナ、アオナ」と鳴いている。周囲の人たちに聞いても、同じように聞こえるという。地元の人は、コオリガモを「アオナ」と呼んでいると聞いた。荒涼とした流氷の海で賑やかに鳴き叫び、俊敏な動作で海に潜ってはエサ取りに忙しい鳥たちの姿を見ているだけで楽しくなってくる。この冬鳥たちも3月から4月にかけて、まだ雪に覆われているツンドラ地帯を目指して去っていくという。
どうしても見られなかった3種の野鳥
北海道で過ごした5年余の間に野鳥観察に開眼した筆者だが、憧れていながらどうしても見ることが出来なかった野鳥は何十種にもなる。その中でも、今に至るも見ていない代表的な3種の野鳥は、アカショウビン、ヨタカ、オオルリである。

アカショウビンは、南方から渡ってきて日本で繁殖して帰っていく野鳥で、鮮やかな朱色と半音階で続く独特の鳴きが魅力的だった。札幌では、住宅の裏庭にも来ており、鳥仲間は「声を聴いたので慌てて外を見たら、アカショウビンがこっちを見ていたのでびっくりした」と語っていた。

ヨタカの鳴きを筆者は毎日聞いた。夜遅く勤務先から帰ってくると、団地の前に広がる森の中から「キョッ、キョッ、キョッ・・・・」と甲高い声が聞こえてきた。一晩中鳴いているが、姿はついに一度も見たことがなかった。昼は森のどこかで寝ているらしく、木の枝に止まらないで、腹を木の枝に着けて乗っているだけ。夜になると活動開始。夜目にも光る赤い眼をしており、飛ぶときは大口を開け、蝶のようにひらひらと飛ぶ。口の中は真っ赤。口を開けるのは小さな虫類を捕獲するためと言う。アイヌの人たちは「オランクルカムイ(地獄の番人)」と言って恐れたという。

オオルリは、全身瑠璃色に輝く森の妖精と言われている。マレー半島など南方から渡ってきて日本で繁殖して帰る。鳴きも可愛らしく姿もいいので、昔は飼い鳥として高値で売っていたという。筆者は運悪く、一度も見たことがなかった。森の中では普通に見られる鳥なので、仲間たちから「オオルリを見ないなんて信じられない」とよく言われた。


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