<第14話> 1970年に統一教会の源流を取材

記者馬場錬成一代記

 思い出しのきっかけは安倍晋三氏銃撃事件

 2022年7月8日、参院選で自民党候補の応援演説をしていた安倍晋三元首相(当時67)が、後ろから2発の銃弾を浴びて死亡した。山上徹也容疑者(45)が殺人未遂容疑で現行犯逮捕され起訴された。犯行に使われたのは手製の銃だった。犯行の動機は「世界平和統一家庭連合(旧統一教会)と関わりがある安倍氏を狙った」という。

 その後の調べで、被告の母親が夫の死亡保険金や自宅を売った資金など約1億円を教団に献金し、家庭が崩壊していたことが判明した。その教団の友好団体に、安倍氏からビデオメッセージが送られているのを見ていたこともわかった。被告は「許せない」と思ったのである。

1970年の「花売り」が源流だった

 筆者はこの事件を知ったとき、すぐに思い出したことがあった。学生紛争で世の中が揺れていたころ、銀座、新宿、渋谷、池袋などの繁華街の街角に、若い女性を中心とした街頭花売りが異常発生した「現象」だった。

 そのころサツ回り記者をしていた筆者は、そのうさん臭さを嗅ぎ取り、取材を進めていた。カーネーションや菊の花を2,3本ひもでくくった花束を300円で売りつける。今の物価にすれば1000円程度だったろうか。問題はその売り方だった。

 20歳前後の若い男女が、グループを作り、道行く人に立ちはだかり、「カンパをしてください」と押し付けるようにして売る。「青少年の健全育成のため」とか「世界平和のため」とか「貧しい人を救うため」とか、きれいごとを並べるだけでしつこく付きまとう。

 「本部はどこにあるのか」と問い詰めると東京都渋谷区松濤1-1-2だという。取材に行ってみると「世界キリスト教統一神霊協会」とあり、応対に出た人が「花売りは奉仕グループが独自に活動しているので、当方には関係ない」と言う。

 安倍氏の銃殺事件の報道をみていると、犯人は世界平和統一家庭連合(旧統一教会)を憎み、その本部は「渋谷区松濤1-1-2」とある。「松濤」という地域は、渋谷の繁華街と隣接していながら立派な邸宅が並ぶお屋敷町だから覚えていた。

 そのとき50年以上前の花の押し売り記事を忽然と思い出し、スクラップブックを引っ張り出してみた。1970年1月29日付け、読売新聞夕刊、社会面8段トップの記事である。

 しつこいなぁ 

 ダニのような  ヘビのような 花の押し売り“異常発生”

 若者が街頭で花を売る大きな写真がついていた。あのときの「押し売り本部」も、全く同じ住所だった。統一教会があれからずっと生き抜いて、今では家庭崩壊を招くほど金を集める宗教団体になっていたのだ。

 「世論の味方」が欲しかった警視庁

 あのとき花の押し売り取材を進めていくと、警視庁が迷惑行為として実態調査に乗り出していた。場合によっては道交法や軽犯罪法違反で摘発したい意向があるように感じた。しかし警視庁丸の内署の公安担当刑事から聞いた話だと、背後に右翼の大物の笹川良一氏が控えているという情報だった。「世論の味方がないと踏み切れない」のだという。

 サツ回り記者は、週に1回、泊り当番があり夜になると社に上がって宿泊する。最終版の締め切りは午前2時ころであり、終わってゲラを点検して一杯飲んでいるとき、筆者は隣にいた先輩記者に、花の押し売りを取材したが、書きぶりが難しいとこぼしたことがあった。

 先輩ベテラン記者も、押し売り状況はよく見ていたようで「あれは早くやれ。よそ(他の新聞)に先に書かれるぞ」と言う。それで写真部のカメラマンにも押し売り現場の撮影を依頼し、大至急、原稿を仕上げることにした。

 「ダニ、ヘビ」を付け加えたベテラン記者

 原稿を何度も読み返し、写真も揃えて夕刊デスクに提稿した。デスクは、何度かひっくり返しては読んでいたが、筆者が座っていた遊軍席にやってきて、筆者ではなくベテラン遊軍記者の前にどさっと原稿を置き「ちょっと見てくれ」と言って去っていく。原稿が不十分だから、手を入れてくれという意味だ。

 ベテラン記者は、原稿を読みながらふむふむとうなずいているように見える。ペンを取ると何やら書いてデスクに持っていく。どう手を入れたか分からないが、余りにも簡単な直しにあっけにとられていた。

 刷り上がってきたゲラを見てびっくりした。主見出しに大きなトッパンで「しつこいなぁ」とあり、タテ見出しに「ダニのような ヘビのような」の文言がついている。前文に「つきまとうことダニのごとく、しつこいことヘビのよう」とある。ベテラン遊軍記者は、この一言を付け加えただけだった。それが見出しになっていた。

 「ダニ・・・、ヘビ・・・」そんな言葉は筆者には100年考えても出てこない。それが前文にすんなりとおさまり、見出しになって記事文全体にインパクトを与えている。ゲラを前に筆者は、半ば呆然としていた。

 その遊軍記者が言った。

 「君の原稿は整っていていいんだが、それだけじゃあ読者の関心や同調は取れない。情感に訴えるものがないとな」とこともなげに言う。「そこだけだよ。あとはいい原稿だった」と言うと、そそくさと席を立って行った。

 戸別訪問にエスカレートしたカンパ運動

 夕刊で報道されたその日の夕方、筆者は世界キリスト教統一神霊協会の指導者は、笹川良一氏と聞いたので、笹川氏を電話で追いかけた。いくつかの電話先を追跡し大阪に出張中の笹川氏をとらえた。

 実情を説明すると笹川氏は「そのような迷惑な活動は許しがたい。すぐにやめさせる」と強い調子で語った。これには驚いたが、もっと驚いたことは、その日の夜から都内の繁華街から花の押し売りが姿を消したことだった。

 しかしその後、首都圏では戸別訪問して花売りとカンパを要求する行為は続いたが、ほどなく沈静化していった。戸別訪問の原稿は、後日、追加で書いて反響があった。

 警視庁は、このころから背後に政治的勢力があることを承知していたようで、安倍銃殺事件から様々な「捜査当局への圧力」があったことが、明るみに出てきた。

 マインドコントロールと霊感商法

 統一協会はやがてマインドコントロールで信者を増やし、霊感商法など反社会活動へとエスカレートしていった。

 筆者はその後、別のテーマの取材で忙しく、花の押し売りと統一神霊協会のことなどすっかり忘れていたが、その後、霊感商法の被害者と偶然に出会い、統一協会の反社会活動のあらましを知って驚愕した。

 「花の押し売り」時代から、統一教会は警視庁からもマークされる団体だったのだ。それが名称を変え、活動が地下に潜っていったが、実態は不条理な「カネ集め」であり、その多くが政界工作資金として国会議員に流れていった。

 元首相の銃撃事件をきっかっけに、反社会的活動の全貌が姿を現し、ついに2025年3月に東京地裁は、民事上の不法行為を理由に解散命令の決定をした。統一教会側は東京高裁に抗告したが、審理は終了して現在、判断を待っている。

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