3塩基でアミノ酸を規定
DNAはA(アデニン)、T(チミン)、G(グアニン)、C(シトシン)という4塩基がらせん状の梯子段を作って、限りなく並んでいる。梯子はAとTまたはGとCとだけ手を結び、らせん状の梯子段を作っている。
このらせん状梯子段に、なにか意味があるのか。化学・物理学者らも参加して分析した結果、3つの塩基が1つのアミノ酸を規定していることを発見した。
単に不規則に並んでいると思われていた塩基の並びが、3つずつ区切りをつけて1つのアミノ酸を規定しているという。
しかし、4個ある塩基が3個で一つのアミノ酸を規定しているが、4種の塩基が3塩基作る組み合せは、4の3乗(4×4×4= 64)通りもある。20種のアミノ酸しか使っていないのに、64種もあるのはおかしい。
しかし世界中の研究者が参入して、64種の組み合わせの意味を解読してしまった。

アミノ酸をダブって規定しているのもあった
3塩基の組み合わせが64種。20種類のアミノ酸を規定するだから、ダブりが出てくる。さらに「開始」と「ストップ(停止)」という塩基配列も出てきた。これは、DNAのなかにあるたんぱく質遺伝子暗号を読むときに、どこから開始し、どこで終わる(停止する)かを塩基配列の中で規定したものだ。限りなく続いている塩基の途中に、スタートとストップがあったのだ。こんなことまで遺伝子の分子構造で決めているとは驚きだった。
実験の材料は大腸菌
大阪大学医学部分子遺伝学の次田晧教授の研究室で、3塩基配列の64通りのうち29通りを同定したと聞いて、早速、大阪大に取材に行った。どのようにして3塩基とアミノ酸の規定を決めたのか。聞いて驚いた。研究材料は大腸菌だった。
「大腸菌も人間も進化の道筋は一本道ですから、DNAの仕組みは同じです。ウイルスだって同じです」という話から、しばし進化論の「授業」を受けた。初期の生命誕生から大腸菌に進化し、恐竜の時代を経て哺乳類、類人猿、人間という進化の歴史である。この話は非常に面白いので、別の機会に報告したい。ここでは長すぎてしまう。


写真左は大腸菌の顕微鏡写真。右は大腸菌を培養している次田教授。
DNAが種をつなぐ遺伝子だから、人間も大腸菌も、全く同じ遺伝子DNAで種をつないできた。だからいま、人間のDNAを調べるとき、大腸菌のDNAを調べるればいいという理屈には、なるほどと思わざるを得なかった。
大腸菌を増やしてバケツでくみ出す
大腸菌も人間もDNAは同じだから実験材料に使うという。どんなことをするのか。約30リットルの水溶液の中に大腸菌を入れ、体温とほぼ同じ37度に保ち、空気を送って約6時間かき回す。このとき他の菌が入らないように空気は殺菌してある。大腸菌のエサはカゼイン。これは牛乳のたんぱく質の約80%を占めているもので、チーズの原料になっている。
最初、1立方センチあたり10の6乗(1,000,000)個あった大腸菌は、6時間後には1000倍の10の9乗個にまで増えており、水溶液は大腸菌でドロドロになってしまう。これを遠心分離機にかけ、DNAだけを取り出して分析していくという。
なぜ3塩基でアミノ酸を規定したのか
宇宙には無数にあると信じられているアミノ酸だが、地球上の生物は20種類のアミノ酸しか使っていない。なぜ人間の手足の指の合計と同じ20なのか。それは分からない。偶然としか言いようがないが、進化の過程で20に固定されたと言われている。
さて、20種のアミノ酸は、DNAを構成する4種類の塩基のうち3種の並びで規定されている。4種類の並び方すべて書いてみると64ある。ATGCの4文字をAGTとかGCAとかGGCとか無作為に3個の組み合わせを出していくと64あるという意味だ。
しかしアミノ酸は20しかないから1対1で対応しているわけではなく、ダブっているのが出てくる。
次田教授は「1対1では、余裕がなくなる。いくつか余裕を持たせて対応できる方が安全に生きられる。と言うよりも、進化の過程でどんどん淘汰されて偶然に生き残ってきたのが、今の対応になっているということだろう」という。
つまり、最初から組み立てた塩基配列ではなく、何十億年もの進化の過程で生き残ってきた生物のDNAが今の形になっているに過ぎないというものだった。
上の表で見るように、20種類のアミノ酸は、どこかで聞いたような名前が多つ連なっている。健康食品などで強化されたアミノ酸もあるし、グルタミン酸などはおいしい味覚のもとになっている。しかしアミノ酸は単独で生体に機能するのは難しく、このアミノ酸が数百から数千とつながってたんぱく質を作っている。アミノ酸はたんぱく質の材料だったのだ。
ではたんぱく質はこの世にどのくらいあるのか。研究者は「無数にある」と言うだけで、人間が知らないたんぱく質も多数あるという。ある研究者は「人間は水とたんぱく質で生きている」とも語っていた。そのたんぱく質が20種のアミノ酸でできており、アミノ酸は4つの塩基のうち3連塩基で規定され、遺伝子DNAの中に二重らせんになって格納されている。
生きていることとは、DNAの中から瞬間的に遺伝子操作してアミノ酸を選び、たんぱく質を作って生命現象を営んでいる。「人間は、体内にある途方もない化学工場を瞬間的に操作・運営して生きている」とも聞いた。


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